ILCはなぜ北上山地が最適なのか?
- 2017/07/04 Yamaguchi
◎深さ40キロまで一つの花崗岩の北上山地、地震に強く、ILCは9年で完成する
奥州市(水沢)にもほど近い北上山地が世界的な科学プロジェクト「国際リニアコライダー(ILC)」の建設拠点として最適だとの国際的な結論がでているが、なぜ北上山地なのかについては、これまであまり詳しく知られていなかった。
このほど「ヒッグス粒子の発見」という科学史に残る業績を成し遂げたCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の設計・建設を指揮し、リニアコライダー・コラボレーション・ディレクターのリン・エバンス氏がその理由を、「北上山地の地下は深さ40キロメートルまで一つの花崗岩でできており、地震に強い」「建設は9年で完成する」などと明確にわかりやすく説明しているので、ぜひ水沢高校同窓生の皆さんにお読みいただきたい。
これは「HIILLS LIFE」Dailyのサイトに掲載された「Innovation ILC 日本がサイエンス界のリーダーになる最後のチャンス」という記事で、次のURL アドレスで読むことができる。
https://hillslife.jp/innovation/2017/07/03/ilc/
記事の中で、エバンス氏は「宇宙誕生の再現! なぜそんなスケールの大きい世界的な科学プロジェクトの候補地として、岩手県・北上山地に白羽の矢が立ったのでしょうか?」という問に次のように答えている
エバンス 政治的な意図を排除し、あくまでリニアコライダーの建設に向いているか、つまりは地質や電力供給、あるいは物流など、さまざまな尺度で検討を繰り返し、候補地を絞り込んでいきました。候補地を絞り込む作業には、10年以上かけていると思います。アメリカやスイス、ドイツ、ロシアにも候補地があったのですが、総合的に見ると、北上山地がベストだというのが現時点での結論です。
ILCは地下およそ100mに設置される予定ですが、北上山地の地下は、40㎞にわたってひとつの花崗岩でできているのです。これはとても特別なことで、ILCを作るためには欠かせない「安定感」につながります。地震が起きても岩全体が一緒に動きますから、装置には問題がないことがわかっています。
ちなみにILCの技術に関していうと、1/20サイズのプロトタイプがドイツで作られました。粒子の衝突実験ではなく、自由電子レーザーという放射光の施設なのですが、テクノロジー的にはまったく同じテクノロジーなので、「明日からILCの装置を作り始めろ」と言われても、まったく問題がないレベルまで成熟しています。
——実際、明日から作り始めるとしたら、どれくらいで完成するのでしょうか?
エバンス 2〜3年間かけて準備を行い、建設が始まってから9年で完成する予定です。
総工費は8000億円以上とみられます。当然、日本の税金が投じられるわけですから、日本国内でももっとILCのことが認知され、活発に議論されるべきだと思います。ちなみに、CERNが既に証明しているように、街づくりのなかで雇用は創出されるし、最新鋭のテクノロジーが導入されることによるスピンオフのメリットも、多いにあります。CERNの場合、経済効果は投入した資金の3倍といわれ、ILCでも同程度の試算が出ています。
エバンス氏は「ILCは日本のみならず、北米、ヨーロッパ、アジアの20カ国以上から、2000人もの研究者が参加する国際的な研究所になる予定です。基礎科学を使って、日本が世界平和をリードできる、大きなチャンスだと思います」と強調している。
(山口 光)